うまいきしめんはここにある!~舌に吸いつく魅惑の幅広麺「えびすや勝川店」
伝統的な技法を継承する一方、いつの間にか目指す方向が違っていき、結果的に別物になっていた、というケースがままあるのがのれん分けの面白いところ。名古屋めしでいえば、「味仙」の台湾ラーメンが典型例。兄妹でのれん分けされた各店によって調理法が異なり、その違いが逆にマニア心をくすぐっています。そして、「えびすや勝川店」の場合、修行先とは別物になっていたのがきしめん。幅はおよそ2・2cm。本店が正統派らしく最も標準的な幅およそ1㎝なのに対して、2倍以上も幅広です。

ご覧の通りの幅広麺。幅は2㎝以上

こちらは「えびすや本店」(名古屋市中区)のきしめん。幅およそ1㎝といたってオーソドックスなきしめん
お客の「おいしい!」の声に応えいつしか幅広に
ところが、店主の伊藤辰男さんに「全然違いますよね」と水を向けると、「そうですか?」と意外そうな表情。我が道を行くのだ!と断固たる決意で変えたわけでは決してないようです。
「中学を出てすぐ本店に入って12年修行しました。独立してからも2年くらいは本店と同じように打ってたと思うんですが、醤油の蔵元の社長さんが食べにいらした時に『広いなぁ』とおっしゃって、『へぇ、そうですか』と答えたのを覚えています。広くすると舌ざわりがよくなるので、それを『おいしいね』といってもらえて、気づいたらこうなっちゃってました」
ここ数年、きしめんの幅広化はトレンドになっていますが、ここでは1980(昭和55)年の開店から数年後、つまり40年以上前から既に幅広になっていたようです。以前紹介した「芳乃家」(名古屋市昭和区)と並ぶ、元祖・幅広きしめんの一軒といえそうです。それでいて、強く意識して幅を広くしたわけではなく、お客が喜んでくれるものを追い求めた結果、今の形になっていたというのが、お客本位の職人らしい実直さだと感じます。

店主の伊藤辰男さんは1952年生まれ。すべて手作業の純手打が「えびすや」グループの基本
もっちり!とろろん!!むきゅむきゅ!!!
舌ざわりを重視した、という店主の言葉は、実際に食べてみるとなるほど納得! 麺はもっちりとして舌に吸いつくよう。とろんととけるようでいてむきゅむきゅとした弾力もあり、表面の微妙な凸凹も食感の余韻を残します。
この唯一無二の食感を生み出すための一番の決め手は“こね”の作業。小麦粉のひと粒ひと粒と水がしっかり混ざり合うように実に30分以上かけるといいます。「その日の気温や湿度によって水や塩の量は微妙に変わります。計るのではなく、毎日さわって手の感覚で調整します」

シンプルなきしめんが最も麺の食感の魅力を堪能できる。800円(きしころ850円)
つゆは溜まり醤油ベースの赤つゆ、白醤油ベースの白つゆの2種類を基本とし、メニューによって微調整を加えます。肉うどんは赤つゆに刺身醤油と砂糖、山かけうどんはざるつゆに本だし、釜揚げうどんは本だしに溜まり醤油、カレー煮込みうどんは味噌を少々・・・。一品一品、具との相性を考慮してつゆの風味を変えているのです。

きしめんは幅広だが、煮込み麺は細め。写真はカレー煮込みうどん
職人の心意気は頑固でも雰囲気はアットホーム
毎日朝5時半には厨房に入り、麺とつゆに関する作業はすべて1人で行うという店主。やっていることは非常にこだわり派で頑固ですが、人当たりはあくまで穏やか。加えて、接客担当の妻・直子さんの明るい人柄で、店の雰囲気はとてもアットホーム。いつも地域の常連でにぎわっているのは、おいしさに加えて夫婦で切り盛りする温かさがあるからでしょう。
このところ流行りの幅広きしめんですが、唯一無二の食感はその多様性や奥深い魅力をあらためて知らしめてくれます。ここで食べずして幅広を語るなかれ!

店主の伊藤辰男さんと妻の直子さん。2人とも岐阜県養老町出身。「辰っちゃんがお店を出して1年半後に地元にお見合い相手を探しに来て、みんなが『そんなら直ちゃんや!』っていうから本当にお嫁さんになっちゃった(笑)」と直子さん
■えびすや勝川店
・愛知県春日井市旭町2-19-19
・1980年創業
・0568-32-3982
・11:15~14:30
・火・水曜休
・JR勝川駅より徒歩約8分
・駐車場7台
・38席
・きしめん 800円
・きしめん 幅/2・2cm・厚さ2mm
・小麦粉/金トビ志賀・金トビ
・ダシ/ムロアジ、宗田ガツオ
・ころきしめん850円、ざるきしめん900円
・その他メニュー/玉子とじ950円、釜あげ1150円、海老おろし1700円、きしめん定食1250円、親子丼1100円、味噌煮込みうどん1200円、カレー煮込みうどん1200円

テーブルと小上がりがあり庶民的な雰囲気の昔ながらの麺類食堂
※写真撮影/すべて筆者
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