うまいきしめんはここにある! 薄くてもコシがある秘密は生地にあり!~「えびすや本店」

讃岐うどんを平たくしてもきしめんにはならない(!?)。きしめん=うどんを平たくしただけ、という、きしめんシーン最大の誤解を純手打ちの老舗が解く!
大竹敏之 2026.04.08
誰でも
えびすや本店のきしめん950円。写真撮影/すべて筆者

えびすや本店のきしめん950円。写真撮影/すべて筆者

「きしめん=うどんを平たくしただけ」じゃない!

讃岐うどんの生地をきしめんのように薄く延ばしたら、ぷちぷち切れてしまっておいしくないでしょうね

こう語るのは「えびすや本店」の3代目、中山義規さん。同店は生地をこねるところから延ばして切るまですべて手作業の純手打ちを守る老舗。名古屋市内を中心にいくつもののれん分け店があり、名古屋の伝統的な手打ち麺文化を守っています。

「えびすや本店」は名古屋随一の繁華街・錦三(きんさん)のド真ん中にある。通し営業で深夜1時まで開いているという点でも貴重

「えびすや本店」は名古屋随一の繁華街・錦三(きんさん)のド真ん中にある。通し営業で深夜1時まで開いているという点でも貴重

さて、冒頭の言葉の裏には「きしめん=うどんを平たくしただけ」という多くの人が思い込んでいる誤解があります。地元・名古屋でもそんな風に思っている人は少なくないのですが、決してそうではないといいます。

「確かに、名古屋ではうどんもきしめんも生地は同じで、平たく延ばせばきしめんになる。でも、名古屋は生地のつくり方が独特で、他の地域のうどんの生地を平たくしてもきしめんにはならないんです

きしめんの具は油揚げ、三つ葉、かつおぶしといたってシンプル。そのため意識を麺に集中できる

きしめんの具は油揚げ、三つ葉、かつおぶしといたってシンプル。そのため意識を麺に集中できる

高濃度の塩水で生地をつくるのが名古屋流

違いは塩分。一般的なうどんと比べるとその差は明らかです。

  • 一般的なうどん/塩水の塩分濃度=冬10度 夏13~15度

  • 「えびすや本店」のうどん・きしめん/同=冬20度 夏23度

「えびすや本店」は名古屋でも特に塩分濃度が濃く、一般的なうどんの実に2倍! これ以上は塩がとけない飽和食塩水が26・5度ですから、夏場はほぼ限界ギリギリの濃さの塩水を使います。もちろん生地の塩分はゆでる際にほとんど抜けますから、生地自体がしょっぱくなるわけではありません。

生地は塩分が多いほど延ばしにくくなるため、名古屋では生地を丸めた後にひと晩寝かせて熟成させます。これも朝こねた生地をその日のうちに使い切るのが一般的な他地方のうどんとの大きな違いです。

生地は熟成させることによって弾力が生まれますが、それでも他地方の生地に比べると延ばすのは大変。名古屋のきしめんは、延ばしにくい生地をあえて平たく延ばすことによって、薄くてもコシがある、本来は両立しにくい独特の食感が生まれるというわけです。

「えびすや本店」3代目の中山義規さん。「江戸時代の文献にもある名古屋の伝統的な麺のつくり方を守っています」

「えびすや本店」3代目の中山義規さん。「江戸時代の文献にもある名古屋の伝統的な麺のつくり方を守っています」

きしめんの特徴を引き出す職人の技

この生地の製法は他にも様々な利点がある。と中山さん。

「熟成させることで粉臭さがなくなり、うま味や透明感も生まれます。ゆで延びしにくくなり、柔らかいのにかみ切れない弾力も生まれる。つまりきしめんにうってつけの特徴が生まれるんです」

食べる側にとってはいいことづくめ。しかし、作り手にとっては大変です。

「作業は時間もかかるし難しくなる。何より均一に延ばすのは非常に難しく、うちではお客さんに出せるようになるまでは4~5年はかかります」

店内を入ると目に飛び込む麺打ち場。生地にしっかり力を伝えて延ばすために非常に細い綿棒を使うのもきしめんの特徴

店内を入ると目に飛び込む麺打ち場。生地にしっかり力を伝えて延ばすために非常に細い綿棒を使うのもきしめんの特徴

薄くてしなやかな中にギュッと弾力が

実際に食してみると、麺はつやつやでしなやか。舌ざわりはなめらかで、それでいて噛むとギュッと弾力が。中山さんの語るきしめんならではの特徴を実感できます。温かいきしめんももちろんおいしいですが、筆者がお薦めするのは“ころ”(冷たいつゆで食べるうどん、きしめんを指す名古屋特有の呼び方)。冷たい分、麺がキュッとしまり、しなやかさやコシなど食感の魅力がより鮮明になります。

しのだも名古屋独特の麺メニュー。具はかまぼこ、油揚げ、ネギで、白醤油ベースの白つゆを使うのも特徴。1000円

しのだも名古屋独特の麺メニュー。具はかまぼこ、油揚げ、ネギで、白醤油ベースの白つゆを使うのも特徴。1000円

同店の麺はきしめん、うどん、そばの3種類。味噌煮込みうどんはありません。聞けば昭和50年代にメニューから外したのだそう。味噌煮込みうどんは単価を比較的高くしやすい店にとってはありがたい存在で、名古屋ではほとんどのうどん店が採用しています。あえてそれに頼らないという姿勢に、きしめんに対する自信と矜持を感じられます。

えびおろし1600円も名物。「えびすや本店」ののれん分け店が昭和50年代に考案し、本店が採用すると深夜のお客に大ウケ。その後、市内の多くの店が採用するご当地メニューに。写真はうどんだが、きしめんにすることもできる

えびおろし1600円も名物。「えびすや本店」ののれん分け店が昭和50年代に考案し、本店が採用すると深夜のお客に大ウケ。その後、市内の多くの店が採用するご当地メニューに。写真はうどんだが、きしめんにすることもできる

これぞ名古屋のきしめん!という正統派の一杯。食べ歩きを楽しむ際、まずここで食べて自分の中に「きしめん基準」を設けると、その後の各店の特徴もわかりやすくなることでしょう。

奥へと細長い店内。座敷席や2階を含めて全100席の大型店で大人数でも利用しやすい

奥へと細長い店内。座敷席や2階を含めて全100席の大型店で大人数でも利用しやすい

・名古屋市中区錦3-20-7

・℡052・961・3412

・11:00~深夜1:00(土曜・祝日は21:00まで)

・日曜休

・100席

・地下鉄栄駅より徒歩5分、伏見駅より徒歩7分

・駐車場 契約駐車場あり

・きしめん・麺/幅1cm、厚み2mm

・小麦粉/金トビ志賀 金トビ

・つゆ/帝国醸造 溜まり醤油

・ダシ/ムロアジ、宗田ガツオ

・その他のメニュー/ざるきしめん1000円、カレーきしめん1100円、天なべやき2000円、親子丼1150円、えびと野菜の天ぷら1250円

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