うまいきしめんはここにある!~きしめんは夏だけ・ころだけ「森田屋」
約20年のブランクを経てきしめん復活
「森田屋」は1888(明治22)年創業と伝えられ、実におよそ140年の歴史を誇る名古屋でも屈指の老舗うどん屋です。
そんな伝統のある同店ですが、名古屋の元祖・ご当地麺であるきしめんは長らく品書きから外されていました。
「40年くらい前にきしめんをやめました。僕はまだ子どもだったので詳しくは聞かされていませんでしたが、この時にラーメンや味噌カツ定食などもなくし、メニューをしぼり込むのが一番の理由だったようです」とは4代目の玉津亮さん。
当時、うどん屋は外食産業の花形で、どの店も昼時はいつも満席、出前も引きを切らなかったといいます。多忙を極める中で、打つのに手間がかかる割に単価が低いきしめんは、店から敬遠されるようになってしまっていたのです。
きしめんを復活させたのは2015年。この年にスタートした「きしころスタンプラリー」がきっかけでした。ラリーは冷たいきしめんを夏に味わってもらうのがコンセプトで、これに合わせて打つため、必然的に夏限定・ころ限定になったというわけです。
幅広ブームの中あえて“幅狭”の理由とは?
一番の特徴は「幅六」と称される6mm幅の麺の細さ。きしめんは幅1cmが標準とされ、近年は幅広ブームで2cm前後の店も増えている中、逆張りともいうべき細さは異彩を放っています。
「一番の理由は、製麺機の刃を味噌煮込み用の麺に合わせて6mm幅に設定してあるからです」と玉津さん。麺の種類によって刃をセッティングし直すのが手間だから、といいながらも、この幅に合わせての工夫も施されています。「きしめんは口あたりのよさが大切。ちょうどよい幅と厚みは比例していて、幅が狭ければ厚みも薄い方がよい。6mmの幅に合わせてギリギリまで薄くしています」

幅が狭くて薄いきしめん。するするとスムーズにのどを通っていく。具はネギ、大根おろし、しょうが、かいわれ大根、かつおぶしといたってシンプル
麺打ちには先々代の時代から製麺機を使用していますが、だからといって機械まかせでは決してないといいます。「機械打ち特有の技術が必要で、ここ数年は特にすごく手をかけています。手打ちよりももっと引きのばしながら圧しのばす。2つの力を加えることで薄くともコシがある、粘り強くゴムひものような伸縮性や弾力のある麺に仕上がります」と玉津さん。
「口あたりが大切」という玉津さんの言葉は、実際に食すとなるほど確かに・・・!細いためまるでそうめんのようにするするとのどを通っていき、それでいてのびがよく、ちゃんとコシも感じられます。つゆは、名古屋では珍しくダシに昆布も使用し、あっさり上品。そのおかげか、いっそう麺ののどごしがスムーズに感じます。
「温がえし」に細い味噌煮込みも
「幅六きしめん温がえし」もユニーク。冷たいきしめんを温かいつゆにつけて食べるつけめん式で、白つゆ、カレー、アラビアータの3種類のつゆからお好みを選べます。上質の信州豚が盛り盛りにトッピングされていて満腹感も申し分ありません。

冷たいきしめんを温かいつゆにつけて食べる「幅六きしめん温がえし」。白つゆは1200円
味噌煮込みの麺も独特です。有名店と比べるとかなり細めで、それ自体は東区の老舗では珍しくはないのですが、これまた不思議なくらいのびがよいのです。生麺の状態で引っ張ってもちぎれずにぐーーーっとのびていきます。「生地をつくった後で冷蔵庫に入れていったんグルテンの生成を止めるんです。寝ている粉が麺になっていることに気づく前にまた寝かせる。このタイミングを見極めるのがポイントで、手早くやらないと思うような仕上がりにはなりません」と玉津さん。専門的すぎてよく分かりませんが、探求心をもって麺打ちに取り組んでいる姿勢が伝わってきます。

味噌煮込みうどんの麺も細い。こちらも具はネギ主体でシンプルだが、珍しい貝柱も。1200円

実は味噌かつもおいしい。味噌煮込みうどん用の4種の味噌のうち1種を使って味噌ダレをつくり、信州豚をラードで揚げて食べ応えも十分。味噌かつ丼は写真のようにカツが別添えで出てくる。1100円
老舗でありながら、経験と勘に頼らずに理詰めで技術を追求していく。そんな玉津さんのオタク気質は一見うどん屋の店主としては異端っぽくも感じます。しかし、名古屋のうどん屋は、昔ながらのやり方に固執せず技術を高めようとする職人が多く、名古屋のモノづくり精神はこの業界全体で脈々と息づいているといえるかもしれません。
表面的にはそんなこだわりを悟らせず、ボリュームある盛りつけや民芸調の飾らない店構えで常連に安心感を与えてくれます。表向きはあくまで庶民的な昔ながらのうどん屋。その裏に潜む店主のこだわりや他店との違いに気がつくと、きしめんも味噌煮込みうどんも一段と味わい深くなるはずです。

4代目の玉津亮さんは1980年生まれ。会社員経験を経て30才で家業に入った
■森田屋
・名古屋市東区赤塚町15
・℡052・931・6848
・11:00~15:00
・日祝休
・駐車場11台
・名鉄瀬戸線尼ヶ坂より徒歩15分
・きしめん/ 幅6mm、厚さ1mm
・小麦粉 日清製粉・薫風
・つゆ 溜まり醤油・濃口醤油
・ダシ/ムロアジ、宗田カツオ、利尻昆布
・その他メニュー
ざるきし950円、うどん650円、しのだうどん1000円、かれーうどん1100円、味噌煮込みうどん1200円、かれー煮込みうどん1200円、玉子丼900円、かつ丼1100円

民芸調の店内。テーブルの他、小上がり席もある
※写真撮影/すべて筆者
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