うまいきしめんはここにある!~創作しすぎ!技術に裏打ちされた遊び心を味わう「手打めん処 三朝」
「うどん屋はまっと工夫せんとあかん!」
「大将、仕事しすぎ」。長年、名古屋のうどん屋を取材している筆者ですが、店主に最もかけてしまう言葉はこれかもしれません。
名古屋のうどん屋の店主はとにかくよく働きます。何せ扱う麺の種類が多い。うどん、きしめん、味噌煮込みうどんの3種類があるのはほぼデフォルト。そばも打って当たり前。夏には冷や麦も打つという店もしばしばあります。何種類も打ち分けるのが基本なので、名古屋の麺職人は非常に“手が早い”(作業がスピーディー)といわれます。
中でも筆者がズバぬけて「仕事しすぎ!」と思っているのが「手打めん処三朝」の店主・佐枝慎一さんです。先の5種類をすべて手打ちでつくるのはもちろん、オリジナルメニューが何種類もあるのです。
「俺にいわせりゃうどん屋はまっと(もっと)工夫せんとあかんわ。他にないもんつくってお客さんに喜んでもらわなー」
という通りメニューには「白いあんかけ」「台湾まぜうどん」「地獄あんかけ」「なっちゃん」など、これは何?と気になる品々が目白押し。しかも、しばらく間を置いて立ち寄るとまた新作が加わっていることも珍しくありません。

志の田tつけめん。白つゆにとろみをつけたつけめんスタイルのきしめん。850円

あんかけきしめん850円。あんかけスパゲッティを彷彿させるがあんはあくまで和風。定番ではないので注文の際は要確認

名古屋めしの一角・台湾まぜそばにインスパイアされた台湾まぜうどん(温・冷、うどん・きしめんをお好みで選べる)1000円

地獄あんかけは激辛の煮込み麺。1200円
変わり種メニューがあれこれラインナップされるため、「うどん界の喫茶マウンテン・・・?」なんて思われてしまうかもしれませんが(?)、店主の創意工夫はむしろ目に見えない部分にこそ注ぎ込まれています。麺の種類によってそれぞれ小麦の種類や配合をすべて変えているといいます。

三代目の佐枝慎一さんは1965(昭和40)年生まれ。「お客さん1人1人の好みやその日の気分に合わせて麺を打つ、寿司屋みたいな“おまかせうどん・きしめん”の店をやりたいね」
名古屋流カレーうどんの元祖直伝の名物にもひと工夫
店主のひと工夫せずにいられない創作精神は、名物のカレーうどんにも注がれています。佐枝さんは名古屋流カレーうどんの産みの親の愛弟子。昭和50年代にその元祖店が大評判となっていた時、高校生にして弟子入り。毎日バイクで通って、“うどんの天才”とうたわれた伝説の麺職人に師事しました。4年間の修行を経て家業に就くと、麺を機械打ちから手打ちに変え、なおかつ元祖直伝のカレーうどんも独自にアレンジ。多彩なスパイスを駆使したスパイシー感やポタージュのようなとろみといった名古屋流ならではの魅力を踏襲しながら、鶏・豚・魚介のトリプルスープを開発し、より奥深い味わいに進化させました。

名古屋流カレーうどんは太麺がよく合う。元祖直伝の味にひと手間加えている。900円
カレーうどんに象徴されるように、元ネタへのリスペクトを忘れず、そこに自身のアイデアを加味しているのが三朝流の創作メニューの特色。確かな技術があり定番への理解が深いので、アレンジしても「これはこれで・・・いやこれこそアリ!」と不思議と納得させられるのです。基礎があるから崩せるというのは、抽象画家が実はデッサンがめちゃくちゃうまい、などどの分野にも通じることといえるでしょう。
きしめんは幅広麺と細麺を食べ比べ
きしめんにもそんな温故知新の姿勢は表れています。麺は幅広と昭和きしめんの2種類。幅広は近年のトレンドを取り入れてもちもち感を重視。昭和きしめんは先代の時代の細い麺を復活させたもので、するするとのどを通るしなやかさが決め手。幅広麺が手切りなのに対し、昭和きしめんは半年かけて修繕した古い製麺機を使い、かつてと同じ幅に切っているそうです。
「手打ちの技術がちゃんと身についていれば、製麺機にも応用して手打ちと遜色ない打ち方ができるんだよ。手打ちと機械打ちでゆで方を変えることでもそれぞれの食感を同様にすることもできるからね」と佐枝さん。このあたりのお話は高度すぎて筆者のような素人には「ちょっと何言ってるかわかんない」状態ですが、とにかく製麺に対して、解像度が高く、かつ応用力も豊かなのです。
最新アレンジメニューである「なっちゃん」では、この新旧のきしめんの食べ比べも。さっぱりしたざるつゆ、卵入りの濃厚な甘だれ、2種類の麺とつゆの相性を交互に確かめながら口に運ぶと、それぞれの麺の持ち味をより意識しながら味わえます。

「なっちゃん」1000円。本来は幅広きしめん用に開発したものだが、昭和きしめんとの相盛りも可。メニュー名は「名古屋めし」「名古屋名物」「ナナちゃん人形」など「な」を頭文字にする名古屋の代名詞にあやかったものとか
元祖直伝のカレーうどんが一番人気で、筆者もこれをメインに紹介することが多いのですが、麺打ちへのこだわりが注ぎ込まれたきしめんや、数々の創作メニューもぜひ味わってもらいたいところ。シンプルなざるきし、さらには他にはないメニューを味わってこそ、店主の麺職人としての実力と、料理人としての豊かなイマジネーションを感じ取れるはずです。

麺とタレはどの組み合わせでもイケるが、筆者のお気に入りは幅広麺+甘だれ
■手打めん処 三朝
・名古屋市千種区千種1-4-25
・1931年創業
・052・731・4283
・11:00~14:00、17:30~20:30(火は昼のみ)
・水休
・JR・地下鉄千種駅より徒歩約10分
・駐車場4台
・44席
・きしめん 500円
・きしめん 幅/7mm・厚さ1・5mm
・小麦粉/公表せず
・ダシ/ムロアジ、カツオ、昆布
・醤油/ヤマヤ・生引き溜り醤油、山川醸造・薄口醤油
・きしめんころ500円、ざるきしめん700円
・その他メニュー/うどん500円、かけそば500円、ざるそば700円、味噌煮込みうどん900円、台湾まぜうどん1000円、かつ丼800円

テーブル席と小上がりがあり家族でも利用しやすい
※写真撮影/すべて筆者
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