うまいきしめんはここにある!~毎日食べたい自家製麺の優しい口あたり「うどんのいなや」

公設市場発のうどん屋が庶民の胃袋を満たしてきた昭和の名古屋。その伝統を引き継ぐ店の魅力はもちろん“早い・安い・うまい”!
大竹敏之 2026.10.14
誰でも

打ちたてだからこその優しい食感

ふんわり柔らかでのどごしはするりと滑らか。つゆをよくまとって香りと味わいを口へと運んでくれる麺は、適度に厚みもあって食べ応えもあり。「うどんのいなや」(名古屋市千種区)のきしめん、その毎日でも食べ飽きない、毎日でも食べたくなる魅力の源は、自家製麺の優しい口あたりにあります。

きしめん700円。名古屋のうどん屋では珍しい、溜り醤油ではなく薄口醤油ベースのつゆ。透明感があって白い麺が映える

きしめん700円。名古屋のうどん屋では珍しい、溜り醤油ではなく薄口醤油ベースのつゆ。透明感があって白い麺が映える

「『毎日打ち立てを出さなかん(出さなければいけない)』がおじいちゃん(義父)の一番の教えでした」とは2代目の中村裕(ひろし)さん。幼い子どもからお年寄りまでが食べやすい食感、そして食欲をそそる小麦の香りは、つくったばかりの新鮮な麺だからこその魅力だといいます。

毎日手づくり。握った感触で正解を見極める

きしめん、うどん、中華そば、そば、味噌煮込み用麺(冬季)、冷や麦(夏季)。6種類の麺はすべて中村さんが店舗2階の製麺室でつくっています。5種類の小麦粉を麺の種類によって配合を変え、塩水(煮込み麺の場合は真水)を手鍋で少しずつ加えながら混ぜ合わせます。

「打ち方を教えてほしい、とよくいわれるんですけど、粉と水の分量も目安はあるけどきっちり決まっているわけではないんです。ねりながら粒の大きさを目で見て、最終的には握った感触で『今日はこれでいいな』と判断します」

2代目の中村裕さんが毎日店舗2階の製麺所でめんをつくる。ゆっくりとくり返しプレスすることで、短時間寝かせるだけでもゆで負けしない麺に仕上がる

2代目の中村裕さんが毎日店舗2階の製麺所でめんをつくる。ゆっくりとくり返しプレスすることで、短時間寝かせるだけでもゆで負けしない麺に仕上がる

名古屋のうどん屋では、塩分濃度の高い塩水で粉をこね、生地をひと晩寝かせるのが一般的。だからこそ薄くてもコシがあるきしめんができる、と多くの店主は主張します。ところが、「うどんのいなや」のきしめん生地は、塩分濃度はあまり高くなく、寝かせるのも数十分ほど。その代わりにゆっくりくり返しプレスして生地を鍛えます。その回数、実に7回。この工程を経ることで、つくりたてならではの新鮮さがあり、ゆでてもダレないきしめんに仕上がるというわけです。

調理場は3代目で長男の俊介さん(左)と次男の凌也さん(右)が担当。家族でのれんを守っている

調理場は3代目で長男の俊介さん(左)と次男の凌也さん(右)が担当。家族でのれんを守っている

みそちゅう、みそきし。公設由来の店だけの“隠れ名古屋めし”

「うどんのいなや」は1956(昭和31)年、「いなや製麺」として新設の公設市場・千種台センター内に開業。当時は自家製麺の卸が中心で、官公庁やホテルなどが主な取引先だったそう。2003(平成15)年に市場閉鎖にともなって、同年開通した地下鉄自由ヶ丘駅に隣接して建てられた自由が丘プラザ内に移転オープン。それを機に卸主体から食堂メインに切り替えましたが、自前で麺をつくり、日々気軽に食べてもらうという商売の基本は変わらないままだといいます。忙しいビジネスマンがさっと手早く、買い物ついでの主婦がお値打ちに、近所のお年寄りが毎日のように。「早い・安い・うまい」の三拍子は、そんな利用が多い公設市場時代から培われたものなのです。

ビジネスマン、家族連れ、シニアと幅広い客層でいつもにぎわう

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名物メニューは「みそちゅう」(みそ中華)、そして「みそきし」。味噌ラーメンとも味噌煮込みうどんとも違う、名古屋の公設市場由来のうどん店でしか出会えない“隠れ名古屋めし”的な一品です。

みそ中華、通称「みそちゅう」760円はお客のおよそ半数が注文する一番人気メニュー

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つゆは薄口醤油ベースで、ダシはムロアジとサバ。うどん、きしめんに使うのと同じ和風つゆに2種類の赤味噌を加えます。いわば赤だしの味噌汁のようなつゆに麺がどっぷりひたっているのです。つゆは赤味噌ならではの濃厚なコクがあり、これがよくしみた麺もまた力強さを感じます。ユニークなのはお好みでつゆを“ぬる”や冷たい“ころ”にもできること。味噌汁を冷たくして飲むことは基本的にないと思うのですが、きしめんや中華麺と一緒にだと不思議とさっぱりした印象でおいしくすすれます。

みそきし720円。公設市場由来の店以外ではありそうでない“隠れ名古屋めし”

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麺とつゆのマッチングを楽しんで

同じきしめんでもノーマルな“かけ”だと柔らかい食感のやさしさが際立ち、つゆとの組み合わせによって印象が変わるのも面白いところ。かけ、ころ、ざる、カレー、みそといったつゆや食べ方はいずれもきしめん、うどん、中華めんのいずれかの麺と組み合わせられるので、自分にとってのベストマッチを見つけるもよし、あえて毎回異なるマッチングで味わいの違いを楽しむもよし。シンプルなメニュー構成ながら選ぶ楽しさがあるのも、くり返し足を運ぶヘビーユーザーの心をつかんでいる所以でしょう。

シンプルに麺そのものを味わうなら湯つききし700円もお勧め

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名古屋は全国的にも公設市場が多かった土地柄で、最盛期には市内に15箇所を数え、現在は5箇所が継続しています。市民の暮らしに密着した店舗が並ぶ市場の中でも欠かせなかったのが製麺所兼食堂で、市内ではそんな公設市場由来のうどん屋があちこちで見つかります。「うどんのいなや」はまさしくその代表的な一軒であり、屈指の人気店。庶民の食生活に寄りそい、なお愛される名古屋らしさ満点の麺類食堂。常連がどれだけ多くても一見も気後れせず利用できるので、大衆食としてのきしめんを存分にお楽しみあれ。

きしめん、うどん、中華めんはそれぞれ同じつゆ、食べ方から組み合わせをチョイスできる

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■うどんのいなや

・名古屋市千種区自由が丘3-2-27シティコーポ自由が丘1階店舗

・℡052・762・0178

・創業 1956年

・10:30~16:00(L.O15:30)

・日、祝日の月休

・34席

・駐車場 共有(自由が丘プラザ駐車場)

・地下鉄自由が丘駅より徒歩1分

・きしめん700円

・きしめん 麺/幅1.2㎝、厚み2mm

・きしめんの具/かまぼこ、油揚げ、花かつお、ねぎ

・小麦粉/金トビ志賀・きぬあかり、日清製粉・桔梗、昭和産業・めんのちから など

・つゆ/イチビキ・薄口醤油

・ダシ ムロアジ、サバ

・ざるきし720円、冷しきし700円

・その他メニュー

カレーきし810円、みそうどん720円、中華そば740円、かけそば780円、冷やむぎ730円、コロッケ110円、かきあげ130円

※価格はすべて取材時(2026年10月)のもの

お昼時にはいつも行列ができる

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※写真撮影/すべて筆者

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