うまいきしめんはここにある!~幅広極薄からもっちり太めまで変幻自在「Higashiyama Nikoten」

きしめん1杯1500円!業界の常識を覆すプライスが話題となった気鋭の店だが、もっと驚きは幅や厚みを何種も揃え、極上の食材を惜しみなく使っていることだった!
大竹敏之 2026.06.23
誰でも

「きしめん1500円」で話題に!

きしめん1杯1500円! 業界の常識を覆すプライスを掲げて「Higashiyama Nikoten」がオープンしたのは2021年10月のこと。当時の町のうどん店ではきしめん400~500円台も珍しくなく、800円でもずい分強気と思われがちでした(その後の原材料の高騰で値上げにふみ切った店も多いですが、消費者の相場感は今もあまり変わらないと感じます)。

透明感があり美しい「Higashiyama Nikoten」のきしめん

透明感があり美しい「Higashiyama Nikoten」のきしめん

高級料亭並の食材を使い実はコスパが高い

メニューはきしめんと味噌煮込みうどんのみで、それぞれトッピングで何種かのバリエーションがあり、いずれも1500円~。価格だけ見るとお高めな印象を受けますが、実際に食べてみれば十分に納得できるはず。天ぷらなどのトッピングがついているのでボリュームも十分にあり、何より文句なしにおいしいのです。

海老おろしきしめんは2000円。冷たいきしめんに大海老天2尾、野菜点、鬼おろし、のりがトッピングされている

海老おろしきしめんは2000円。冷たいきしめんに大海老天2尾、野菜点、鬼おろし、のりがトッピングされている

さらに使っている食材を聞くと、1500円はむしろコスパが高い、とすら思えてきます。小麦粉は愛知県産のきぬあかりの中でも最高グレードを使用。つゆ、ダシの材料はほとんど高級料亭レベルで、ヒゲタ醤油の高級割烹しょうゆ・本膳に本ガツオ、そして特大羅臼昆布。はっきりいって町のうどん店が使う材料ではありません。つゆの原価は一杯あたりおよそ300円(!)。小麦粉が高騰しているとはいえ粉もん系の店はもともと原価率が比較的低く、高級食材を惜しげもなく一杯のきしめんに注ぎ込んでいるこの店は、実は割安といえるのです。

特大の羅臼昆布。めったに見られない稀少なもの。名古屋のうどん店では宗田ガツオ、ムロアジのダシが基本で、関西では一般的な昆布を使う店はほとんどない

特大の羅臼昆布。めったに見られない稀少なもの。名古屋のうどん店では宗田ガツオ、ムロアジのダシが基本で、関西では一般的な昆布を使う店はほとんどない

きしめんは幅広極薄からもっちり極厚まで!

きしめんを何種類も打ち分けている、というのも他では聞いたことがありません。厚みや幅を調整して何と7種類もあるのだとか。

冷たいつゆと合わせる“ころ”は幅広の薄い麺でテクスチャー(感触)重視。温かいつゆには厚めに打った麺を使い、ふわふわにゆでて小麦の風味を味わってもらいたい」と店主の中村誠さん。冷たいつゆの中にひたった幅広きしめんは、すべすべで舌ざわりが心地よく、それでいてもっちり感も。さらにひんやりしている分、麺の輪郭をしっかりと感じられます。一方で温かいつゆに合わせる極厚きしめん(きしめんで極厚、というのも変ないい方ですが)は、表面はふわっと柔らかく噛むとにちっとした弾力が。私が食べた花巻ききしめんは、海苔の香りを邪魔しないようつゆをギリギリまで薄味にしてあるため、小麦の風味がより確かに感じられます。

冷たいつゆの“ころ”には幅広の極薄きしめんを合わせる。幅20mm・厚さ1・5mm(サイズは筆者調べ)

冷たいつゆの“ころ”には幅広の極薄きしめんを合わせる。幅20mm・厚さ1・5mm(サイズは筆者調べ)

こちらは温かいつゆと相性のいい極厚きしめん。幅10mm・厚さ5mm

こちらは温かいつゆと相性のいい極厚きしめん。幅10mm・厚さ5mm

ちなみに花巻ききしめんの海苔は風味と食感が落ちないように特別に1枚ずつパッケージしてもらっているのだとか。ここでも食材へのこだわりがハンパなさすぎます。もちろん、最高級の素材を活かしたつゆは雑味がまったくなくきわめて上品。料亭の椀物でもいただいているかのようなうやうやしい気持ちになって最後まで飲み干せます

花巻ききしめん1500円。この店専用に1枚ずつパッケージした「本日の焼のり」がついてくる。写真は1/4に割ってトッピングしたもの。徐々に海苔がつゆにほどけて、つゆにほどよい塩味と海苔の上品な潮の香りが加わる。自家製梅干しとわさびで“味変”できる

花巻ききしめん1500円。この店専用に1枚ずつパッケージした「本日の焼のり」がついてくる。写真は1/4に割ってトッピングしたもの。徐々に海苔がつゆにほどけて、つゆにほどよい塩味と海苔の上品な潮の香りが加わる。自家製梅干しとわさびで“味変”できる

昔ながらのうどん店からカフェ風に変身

「Higashiyama Nikoten」の前身は、名古屋市熱田区にあった1960年創業の「千年ニコ天」(「千年」=「ちとせ」という地名に由来)。うどん500円、きしめん600円という庶民的な価格で、丼物や定食もあるごく一般的な麺類食堂でした。しかし、3代目の中村さんが少しずつ新しい材料や技術を取り入れ、いつしかマニアの間で評判になるように。『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019』ではミシュランプレートにも選ばれました。

ガラス張りでカラフルなイスが並ぶカフェのような店舗デザイン。うどん店らしからぬ雰囲気だがこれには明確な理由が

ガラス張りでカラフルなイスが並ぶカフェのような店舗デザイン。うどん店らしからぬ雰囲気だがこれには明確な理由が

旧店舗の契約の関係で移転することになった際、中村さんがイメージしたのは「1人で調理し、奥さんと2人で切り盛りできる店」でした。そこで目安としたのが20席程度のこぢんまりした店舗で1日最大50食を出すこと。それを成立させるために具体化したのが、オープンキッチンで見通しがよくシンプルな動線の空間、1500円~という価格設定、小さな子どもづれNGというスタイルでした。町のうどん店としては異例づくめの方針にも思えますが、納得のいく料理を提供して、それを理解してくれるお客に来てもらえるようにと考え抜かれたものだったのです。

中村誠さん・宏美さんの夫婦2人で切り盛りする

中村誠さん・宏美さんの夫婦2人で切り盛りする

1人1人に適した最高の一杯を

きしめんの麺を何種も打ち分けているだけでなく、何とお客によってつゆの配合も調整しているのだとか。「若いお客さんにはカツオ多めでやや酸味のある上品なつゆを、名古屋の濃い味に慣れている年配の人にはサバ多めのまったりした味わいにしています」と中村さん。こんな個々のお客に合わせた目に見えない配慮もまるで料亭のよう。さらには麺をゆでる際も一人前ずつ釜に入れ、火の通り加減をチェックしながら丁寧に仕上げています。何度もいいますが、町のうどん店の仕事ではありません

麺は一人前ずつ、麺の厚みやその日の気候によって最良のタイミングを見極めてゆでる

麺は一人前ずつ、麺の厚みやその日の気候によって最良のタイミングを見極めてゆでる

味噌煮込みうどんも1500円~で、ユニークなつけめんタイプなど時期によって様々なバリエーションがある

味噌煮込みうどんも1500円~で、ユニークなつけめんタイプなど時期によって様々なバリエーションがある

おまかせコースで店主のこだわりを堪能

名古屋のうどん店の店主は凝り性が多く、小麦でも調味料でもよいものがあると聞くと積極的に試し、そっちの方がおいしいと思えば躊躇なくつくり方を更新していきます。私はそんな姿勢を畏敬の念を込めて「変態的」と呼んでいるのですが、「Higashiyama Nikoten」の中村さんは中でもトップクラスに変態的といって間違いありません。

そんな中村さんのこだわりぶりを存分に体験できるのが貸し切り利用です。麺だけでなく幅広い料理、さらには酒への造詣も深い中村さんが、予算や要望に応じて特別コースをくり出してくれるのです(予算6000円~、最大8名まで)。私は試作品の「白ワインに合うどて煮」をちょっぴり試食させてもったのですが、これがさっぱりしていて、まさにキリッと冷やした白ワインやスパークリングに合いそう。中村さん自身が酒好きなだけにつくるアテも、様々な酒とのペアリングを重視してつくられているのです。どんなコースの組み立てで、〆のきしめんまたは味噌煮込みうどんにまで展開してくれるのかも楽しみです。

日本酒やワインなど酒も豊富に取り揃える。夜はおまかせコースで酒ときしめんの意外なペアリングも楽しめる

日本酒やワインなど酒も豊富に取り揃える。夜はおまかせコースで酒ときしめんの意外なペアリングも楽しめる

うどん類はおなかを満たす食事という役割が固定化していて、特に個人店はリーズナブルで丼物や定食もあるという食堂が大半(きしめんも基本的にうどん類の一種とカテゴライズされます)。そばのような嗜好性を打ち出した専門店はほとんどありません。そんな中できしめん、味噌煮込みうどんに特化した「Higashiyama Nikoten」は、きわめて珍しい名古屋のご当地麺の専門店といえます。きしめんの新しい魅力はもちろん、うどん店という昔ながらの業態の新たな可能性にも出会えるはずです。

大通に面したガラス張りの店舗。地下鉄東山公園駅から徒歩1分とアクセスもいい

大通に面したガラス張りの店舗。地下鉄東山公園駅から徒歩1分とアクセスもいい

■ Higashiyama Nikoten

・名古屋市千種区東山通4-11-9

・2021年創業

・11:30~14:00、18:00~20:00

・不定休

・駐車場:なし

・地下鉄東山公園駅より徒歩1分

・17席

・きしめん(天ぷらなどトッピングあり) 1500円~

・麺/幅広=幅2cm・厚さ1・5mm、極厚=幅1cm・厚さ5mm

・小麦粉/きぬあかり

・ダシ/本ガツオ、羅臼昆布

・醤油/ヒゲタ醤油・高級割烹しょうゆ・本膳

・その他メニュー/かしわ天きしめん1500円、とろろきしめん1800円、トマトの冷かけきしめん1800円、海老おろしきしめん2000円、親子味噌煮込みうどん1800円、

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